バイオニュース│DNA・ゲノム情報による医療・創薬の実現

医療関係者としてバイオ/DNA/ゲノム関連の最新の話題をとりあげます.学習/勉強が目的なので,新しい用語が現れたときにはその都度意味を確認していきます.

敗血症

名前からして怖い響きの病気ですよね.あまり認知度の高い病気ではないのですが,患者数が増え続けている病気です.重症敗血症の死亡率は25~40%とされ、心筋梗塞(3~10%)や脳卒中(9%)より高い数値になっています。

 

どういった病気かというと,敗血症はさまざまな病原体が血液中に広がってしまうことで起こります。一般的な原因にはグラム陰性菌ブドウ球菌、および髄膜炎菌などが挙げられます。ただしその言葉の定義は,血液中の菌の有無ではないようで,全身症状を伴う感染症とすることが多いようです.全身症状の程度が病原体や人によって千差万別で,免疫抑制や二次感染なども関与するので複雑な病態だそうです.

 

発展途上国では衛生環境や栄養状況の悪さによって、また、先進国では高齢化や高度医療を受けた後に強い薬などを使ったことによる免疫機能の低下、多剤耐性菌の出現などで、それぞれ敗血症患者は増えているそうです.

リキッドバイオプシー

リキッドバイオプシーは最近トレンドな研究開発分野ですね.

リキッドバイオプシー(liquid biopsy)は主にがんの領域で、内視鏡や針を使って腫瘍組織を採取する従来の生検(biopsy)に代えて、血液(liquid)などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行う技術です。採血といった低侵襲な手法でガンなどの診断ができるので,患者の負担が小さいのがメリットです.

 

それでは,腫瘍の性質を反映した血液中のバイオマーカーは何かというと,

・血中循環腫瘍細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)

・血中循環腫瘍DNA(ctDNA:circulating tumor DNAまたはcfDNA:cell free DNA)

候補となっています.

CTCとは腫瘍から血液中に漏れ出して体内を循環しているがん細胞のことで,cfDNAとは血液中に漏れ出したガン由来のDNAのことです.

 

 

ピロリ菌

ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍などの胃の病気に深く関っている細菌で,胃の粘膜に生息しているらせん形をしています。

胃の中は強酸(pH1-2)であるため、昔から細菌はいないと考えられていました.ピロリ菌は実はpH4以下では実は生きることができないのですが,なぜ生息できるのでしょうか.

実はピロリ菌はウレアーゼという酵素を出していて,この酵素が胃の中の尿素を分解してアンモニアを作ります.するとアンモニアによってピロリ菌の周りの胃酸が中和されるので,生息できてしまう,ということだそうです.

 

今回,なぜピロリ菌の話を出したのか,というとピロリ菌がエピジェネティクスに関与しているためです.ピロリ菌感染による慢性炎症が続くと、胃粘膜の細胞にDNAメチル化異常が誘発されます。前回話題に挙げたように,DNAメチル化異常が蓄積すると発がんリスクが高い状態になり、更に刺激が加わると胃がんが発生すると考えられているそうです.

 

ちなみに,ピロリ菌の感染経路はどのようになっているのでしょうか.実はこれははっきりとまだ分かっていないそうなのですが,口から入れば感染することは間違いないそうです.

ただし,上下水道の生活環境が整備された日本では生水からの感染は考えにくいそうで,また大人になってからの感染も起こらないと考えられているそうです.

ピロリ菌はほとんどが幼児期に感染すると言われているそうです.幼児期は胃の中の酸性が弱くピロリ菌が生き延びやすいそうです.大人から子供への口移しなどで感染する可能性が高いそうなので,要注意ですね.

エピジェネティクス

最近よく聞くワードになったエピジェネティクス

一般にゲノムという生物がもつDNAの塩基配列のことをさすが,DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子の働きを決める仕組みをエピジェネティクスと呼んで,その情報の集まりがエピゲノムと呼ばれています.Wikipediaによると、エピジェネティクスは、「後成説 (epigenesis)」と「遺伝学 (genetics)」に由来する造語だそうです。

 

塩基配列が変わらないのに,一体何が変わっているのか,というと,DNAやヒストンタンパク質に化学修飾される(メチル化やアセチル化)という現象があって,これがエピゲノムの正体です.この化学修飾の何が問題になるのか,というと,DNAメチル化やヒストンタンパク質の脱アセチル化などのエピジェネティックな異常が原因となって,ガンが発生する場合があることが分かっているそうです.

DNAメチル化がガンに繋がるメカニズムについてもう少し正確に書くと,遺伝子の転写の制御を行っているプロモーター領域にある*CpGアイランドにあるシトシンがメチル化されるとプロモーターが不活性になり遺伝子の転写が抑制されるので,病気につながる,ということみたいですね.
*シトシン塩基(C)の次にグアニン塩基(G)がくる2塩基配列(ジヌクレオチド) が高い頻度で出現する領域があることがわかっており、これをCpGアイランドといいます.

メタゲノム

バイオに少しでも携わったことのある人であれば,一度は聞いたことのある単語のはず.

前回のオミックスの話でも触れたように,"-omics"とつくとその研究分野を意味するので,メタゲノムの研究分野はメタゲノミクスという.

 

その意味についてだが,

環境中には多種多様な微生物が存在していて,従来であればまず環境中から微生物を単離して試験管の中で培養して増殖した後,その性質を調べていた.しかし培養のできない生物も多く存在しており,メタゲノム解析は今まで検出できなかった細菌を含めて、細菌叢を構成する細菌を根こそぎ解析する最新の研究手法のことだそうだ.

 

それで何が嬉しいのか,というと実は地球上に生息する最近の99%以上は単独では培養できない菌種と推定されていて,未知の細菌の未知の遺伝子が解析できるらしい.

 

どうやるのか,ということだが,糞便や唾液などから、様々な菌が混じり合った状態でDNAを抽出し、その遺伝情報を"まとめて"解読し、微生物の構成を明らかにするらしい.この細菌の持つ遺伝子をひとまとめにして調べるメタゲノム解析によって,ヒトのマイクロバイオームの正体が明らかにされようとしている.

 

近年のDNAシーケンサの改良や大量データを処理するインフォマティクスの発展によって,研究が盛んに行われるようになったそうですが,素晴らしい技術ですね.ぜひ実用化まで辿りついてほしいです.

オミックス研究

最近オミックスという単語をよく目にするようになったので,改めて意味を調べてみた.

オミックス(Omics):一口メモによると,遺伝子,遺伝子情報を転写したmRNA,mRNAを元に構築されたタンパク質,このたんぱく質の働きという一連のネットワークシステムを把握して,医療に役立てる活動を指すようだ.

解析対象によってゲノミクス(遺伝子)、プロテオミクス(蛋白質)、メタボロミクス(代謝物)と呼ばれるそうです.

 

どうでもいいことですが,メタボの正式名称はメタボリックシンドロームで肥満・高血糖・高血圧の状態を指しますが,直訳すると代謝症候群です.代謝の仕組みについても勉強してまとめる予定です.

Goクラブ

本ブログの最初の記事は,まずはゲノム関連の情報収集サイトの話です.私自身まだ勉強中の身なので,もしお奨めの情報サイトがあれば是非教えてほしいところ.

 

今回取り上げたのはGOクラブです.GOクラブはGenaris Omics Clubの略だそうです.

ここでは次世代シーケンサーやメタボローム解析などのオミックス領域の 最新情報や有用情報を取りあげていて,2週間に一度程度の頻度で更新されているのでありがたい.

少々心配しているのが,GOクラブを運営しているジナリスオミックスとその親会社であるジナリスが2016年7月11日,東京地方裁判所において破産手続きの開始決定を受けたということ.

 

同サイトには

「破産により、今後本サイトの記事が維持できなくなります。なお、今後、別のURLアドレスで、この後継のシリーズ記事を掲載することも予定しております。GOクラブの記事が、特に日本の新しいバイオビジネスの発展に少しでも寄与できればと願っております。」

とあるので,続いてくれると信じています.ニュースの取得には非常にお世話になることと思いますので,応援しています.